形式主語と形式目的語; “see to it that”

形式主語

形式主語(仮主語)とは、主語として名詞節または不定詞の名詞的用法が用いられるときに、主語(次の例文の太字の部分)が文の後方に回り、主語が占めていたポジションに代名詞 "it" が置かれるという現象のことです。

名詞節の例:
"That he too forgot where he hid it was funny.
⇒ "It was funny that he too forgot where he hid it.
(彼自身もそれを隠した場所を忘れていたのが可笑(おか)しかった)
不定詞名詞的用法の例:
"Under the Islamic Law, for a woman to lead men in prayer is forbidden."
⇒ "Under the Islamic Law, it is forbidden for a woman to lead men in prayer."
(イスラム法では、お祈りの際に女性が男性を先導するのは禁止されている)
文全体の長さに対して主語が長すぎるときに形式主語が用いられるのだと考えられますが、名詞節と不定詞の名詞的用法以外では、名詞句がどれだけ長くなっても形式主語が使われることはありません。
"A girl who is carrying an egg with both hands is my sister."
× "It is my sister a girl who is carrying an egg with both hands."

形式主語 vs. 動名詞

不定詞の名詞的用法で不定詞の主語(for+名詞)が無い場合には、形式主語が使われる以外に、動名詞が使われることもあります。 主語(太字の部分)が短いほど、形式主語よりも動名詞が使われる傾向にあるように思います:
"Just to watch was fun." 〔英語としては不自然〕
⇒ "Just watching was fun." 〔動名詞〕
⇒ "It was fun just to watch." 〔形式主語〕
(観ているだけでも楽しかった)
"Just watching the people was fun." 〔動名詞〕
"Just watching her was fun." 〔動名詞〕
"It was fun just to watch the seals(アザラシ)swim and climb." 〔長いので形式主語〕
"It was fun just to watch the dogs and the other guys." 〔長いので形式主語〕

形式目的語

形式目的語(仮目的語)と呼ばれるものもあります。 考え方は形式主語と同じで、次に続く語があるのに目的語にあたる名詞句が長くなりすぎる場合に、その名詞句の本来の位置に "it" が形式的におかれ、名詞句自体は文の最後に回されてしまいます。
"I found it unacceptable that they charged me for a service I was not getting."
(受けてもいないサービスに対して課金されるのには納得できなかった)
that 以下(太字の部分)が本来は "it" の位置に来るのですが、
"I found that they charged me for a service I was not getting unacceptable."

↑では語呂が悪い(竜頭蛇尾な感じ)ので、"it" を身代わりにして that 以下が後ろに回りました。

"see to it that"

"see to it that S+V(取り計らう)" という熟語がありますが、この熟語も "it" を身代わりにして that 以下が後ろに回っています。
"I saw to it that our records of transaction no longer exist."
(我々の取引記録が残らないように取り計らった)
この熟語から "it" を排除して、本来のそうであったと思われる形に戻してみましょう。
"I saw to that our records of transaction no longer exist."

"it" があったときと大差がありません。 すなわち、"it" を持ち出さなくても that~ が文の最後尾なのです。

それでは、この文のどこに不都合があるのでしょう? どうして、"it" が使われているのでしょうか?

それは、前置詞(ここでは "to")の後に接続詞 that を続けることが出来ないというルール(*)があるためです。 このルールを回避するために緩衝材として "it" を間に挟んだというわけです。
(*) このルールの例外として、"in that(~という点において)" という表現がある。 また、前置詞の後ろに来れないのは接続詞の that だけ。 代名詞の that は前置詞の後ろにも来れる。

"see to it that S+V" には、"see that S+V" という "to" と "it" を省いた簡略形(意味は同じ)もあります。 "to" という前置詞を省くことによって "it" も不要になったということでしょう。

"see to that"

"see to it that" の類似表現に "see to that" というものがありますが、この that は代名詞なので「そのこと(that)を取り計らう」という意味になります。

説明の順序が逆転してしまいましたが、そもそも "see to+名詞" という熟語に「(人や物事)に世話をする、配慮する、取り計らう」という意味があります。

「see to」の後には名詞が来るのですから、当然(that 節に導かれた)名詞節も来ることができます。 ところが上で述べたように前置詞の直後に接続詞の that は来ることができない。 そこで苦肉の策として it を間に挟みました。

"see to that" の "that" は、接続詞ではなく代名詞。 いわば名詞節の一部ではなく、1語の名詞そのものであるので、"see to" の直後にも来ることができるわけです。