映画「グリーンブック」のタイトルの意味と由来

グリーンブック」というタイトルの映画が 2019年3月に日本で公開されますが、このタイトルの意味や由来はどういったものなのでしょうか?

"Green Book" の意味

「グリーンブック」は "Green Book" という英語をカタカナで表記した言葉です。

"green" が「緑」という意味で "book" が「本」という意味なので、"Green Book" の字面だけを見ると「緑の本」という意味になります。

しかし実のところ、"Green Book" の "Green" は人名です。 したがって、"Green Book" は「グリーンさんの本」という意味です。

"Green Book" とは

"Green Book" というのは "The Negro Motorist Green Book(自動車に乗る黒人のためにグリーンが書いた本)" というガイドブックの通称です。

このガイドブックの名称はのちに "The Negro Travelers' Green Book(旅行をする黒人のためにグリーンが書いた本)" に変更されました。

このガイドブックは、米国ニューヨーク市で一生を過ごした Victor Hugo Green(1892~1960年)という黒人の郵便局員が、黒人の旅行者ために 1936~1966年にかけて出版したものです。

"Green Book" が生まれた背景

米国では当時、黒人も裕福な者であればマイカーを所有するようになっていたのですが、車で旅行する黒人(非白人)は、ジム・クロウ法(Jim Crow laws)という州法に基づく人種隔離政策(各人種は平等だが入り交じるべきではないという方針)の影響もあって、次のような不都合に直面していました:
  1. 食事や宿の提供を断られる
  2. 自動車を修理してもらえない
  3. 給油を断られる
  4. 暴力を振るわれる
  5. 白人しか住まない町から追い出される
  6. 警察に逮捕されやすい(「マイカーは白人の特権だ。黒人のくせにマイカーに乗るのは生意気だ」という意識があった)

地域によっては、黒人にサービスを提供する事業者のほうが稀で、黒人は広い国土を自動車で旅行するのがとても大変でした。

黒人がマイカーで旅行しようとする場合には、例えば、トイレを利用させてもらえない場合に備えて車のトランクに簡易トイレやバケツを用意しておいたり、飲食店やガソリン・スタンドを利用させてもらえない場合に備えて食料やガソリンを余分に用意しておく必要がありました。

"Green Book" の内容

そんな時代に Green 氏は、黒人が利用できる飲食店・ホテル・民宿・ガソリンスタンド・娯楽施設・ガレージなどを案内(名称と住所を記載)するガイドブックとして "The Negro Motorist Green Book" を自費で出版し始めました。

"Green Book" がカバーする範囲は当初はニューヨーク市だけだったのですが、後には米国だけでなくカナダやメキシコなども含む北米の大部分をカバーするようになりました。

"Green Book" は当初は10ページでしたが、のちには80ページにまでページ数が増えました。 Green 氏は読者に報酬(1ドル。のちに5ドル)を与えて、自動車で旅行する黒人の役に立つ情報を収集したりもしました。

"Green Book" の他にも黒人向けの旅行ガイドブックは存在しましたが、その中でも "Green Book" は当時の黒人旅行者にとってバイブルとも呼べるような存在でした。

"Green Book" の収益

"Green Book" の価格は当初は25セントでしたが、1957年には1ドル25セントにまで値上がりしました(ページ数が増えたせいもあるでしょう)。

"Green Book" は最終的には年間 1,5000部ほど売れていました。 通販のほか黒人系の事業所(ガソリン・スタンドなど)に置かれるといった手段で販売されました。

"Green Book" はサービス提供者(飲食店や宿などでしょう)の側から広告料を受け取るということもしていました。 "Green Book" に広告料を支払ったサービス提供者は、自分の施設の名称を目立ちやすく表示してもらえた(太字で表記したり、名称の横に星印を付けたり)のです。

"Green Book" の終焉

1964年に公民権法(Civil Rights Act of 1964)が施行され、"Green Book" の必要性を生じせしめていた人種差別的な行為が禁止(違法化)されると、"Green Book" もその役目を終えることとなりました。

"Green Book" が不要となる日の到来は、Green 氏が望んでいたことでもありました。

映画「グリーンブック」における "Green Book"

黒人差別が未だ続く 1962年、黒人ジャズ・ピアニストであるドクター・シャーリーは米国南部を8週間かけてまわるコンサート・ツアーを計画します。

米国南部は人種差別が激しい地域で黒人が旅をするには危険なので、彼は道中のトラブルを回避するために粗野な白人バウンサーであるトニー・リップをボディーガード&運転手として雇います。

そして、黒人であるシャーリーとの旅の道中で困らないためのガイドブックとして、シャーリーの所属事務所がトニーに与えるのが「グリーンブック」です。

シャーリーとトニーについて

シャーリーもトニーも実在の人物をモデルとしています。 音楽の博士号を持つ黒人ジャズ・ピアニスト Don Shirleyと、ナイトクラブの支配人・バウンサー(用心棒のようなもの)・俳優などとして活躍したイタリア系の白人 Tony Vallelonga の2人です。
  • Don Shirley(1927~2013年)はフルネームを Donald Walbridge Shirley といい、作中では「ドクター・シャーリー」と呼ばれています。
  • Tony Vallelonga(1930~2013年)はフルネームを Frank Anthony Vallelonga Sr. といい、作中では「トニー・リップ」と呼ばれています。