形式主語と形式目的語; “see to it that”

1. 形式主語

形式主語(仮主語)とは、主語として名詞節または不定詞の名詞的用法が用いられるときに、主語(次の例文の太字の部分)が文の後方に回り、主語が占めていたポジションに代名詞 "it" が置かれる現象のことです。

名詞節の例:
That he too forgot where he hid it was funny.
It was funny that he too forgot where he hid it.
彼自身もそれを隠した場所を忘れていたのが可笑(おか)しかった。
不定詞名詞的用法の例:
Under the Islamic Law, for a woman to lead men in prayer is forbidden.
⇒ Under the Islamic Law, it is forbidden for a woman to lead men in prayer.
イスラム法では、お祈りのとき女性が男性を先導するのは禁止されている。
形式主語が用いられるのは文全体の長さに対して主語が長すぎるからと考えられます。 ですが、名詞節不定詞の名詞的用法を除いては、名詞句がどれだけ長くなっても形式主語が使われることはありません。
A girl who is carrying an egg with both hands is my sister.
⇒ It is my sister a girl who is carrying an egg with both hands.

2. 形式主語 vs. 動名詞

不定詞の名詞的用法で不定詞の主語(for+名詞)が不在の場合には、形式主語のほか動名詞も使われます。
〔不定詞〕Just to watch was fun.(英語として不自然)
〔形式主語〕It was fun just to watch.
〔動名詞〕Just watching was fun.
観ているだけでも楽しかった。
主語(下の例の太字の部分)が短いと、形式主語よりも動名詞が使われる傾向にあるようです。
〔形式主語〕It was fun just to watch her swim and climb.
〔動名詞〕Just watching her was fun.
〔形式主語〕彼女が泳いだり登ったりするのを観るだけでも楽しかった。
〔動名詞〕彼女を観ているだけでも楽しかった。

3. 形式目的語

形式目的語(仮目的語)と呼ばれるものもあります。 考え方は形式主語と同じで、次に続く語があるのに目的語の部分が長くなりすぎる場合に、その目的語の本来の位置に "it" が形式的に置かれ、目的語が文の最後に回ります。
I found it unacceptable that they charged me for a service I was not getting.
受けてもいないサービスに対して課金されるのには納得できなかった。
この用例で、"that" 以下(太字の部分)は本来、次のように "it" の位置に来ます。
I found that they charged me for a service I was not getting unacceptable.

ですが、これでは語呂が悪い(竜頭蛇尾な感じ)ので、"it" を身代わりにして that 以下が後ろに回りました。

4. see to it that

"see to it that~" という熟語があります。 意味は「~を取り計らう」。「~」の部分に入るのは「節(主語+動詞)」です。

"see to it that~" の "it" は形式目的語です。 "it" を身代わりにして that 以下が後ろに回っています。
I saw to it that our records of transaction no longer exist.
我々の取引記録が残らないように取り計らった。

"see to it that" 成立の背景

"see to it that~" の形式目的語をやめて、本来の形に戻すと次の通り:
I saw to that our records of transaction no longer exist.

"it" があったときと大差ありません。 すなわち、"it" を持ち出さなくても that~ が文の最後尾です。

それでは、この文のどこに不都合があるのでしょう? どうして、"it" が使われるのでしょうか?

"it" が使われるのは、前置詞(ここでは "to")の後に接続詞 that を続けることが出来ないというルール(*) ゆえです。 そういう意味で、上の文は英語として正しくありません。

このルールを回避するために緩衝材として "it" を間に挟んだのが "see to it that~" です。
(*) このルールの例外として、"in that(~という点において)" という表現がある。 また、前置詞の後ろに来れないのは接続詞の that だけ。 代名詞の that は前置詞の後ろにも来れる。

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