映画「グリーンブック」のタイトルの意味と由来

2019年に日本で公開された映画「グリーンブック」。 この映画タイトルの意味や由来は、どういったものでしょうか?

1. "Green Book" の意味

「グリーンブック」を英語に戻すと "Green Book" です。

"green" が「緑」を意味し "book" が「本」を意味するので、直訳すると「緑の本」。

しかし実のところ、"Green Book" の "Green" は人名で、"Green Book" の意味は「グリーンさんの本」です。

2. "Green Book" とは

"Green Book" はガイドブックの通称です。 ガイドブックの正式名称は "The Negro Motorist Green Book(自動車に乗る黒人のためにグリーンが書いた本)"。

"The Negro Motorist Green Book" は、米国ニューヨーク市で一生を過ごした黒人の郵便局員 Victor Hugo Green さん(1892~1960年)が黒人の旅行者ために 1936~1966年にかけて出版しました。

"The Negro Motorist Green Book" は後に、"The Negro Travelers' Green Book(旅行をする黒人のためにグリーンが書いた本)" へと改称されました。

2.1. "Green Book" が生まれた背景

当時の米国では、黒人も裕福な者であればマイカーを所有するようになっていました。 でも、車で旅行する黒人(1) は、ジム・クロウ法(2) と呼ばれる州法に基づく人種隔離政策(3) の影響もあって、次のような不都合に直面しました:

  1. 食事や宿の提供を断られる
  2. 自動車を修理してもらえない
  3. 給油を断られる
  4. 暴力を振るわれる
  5. 白人しか住まない町から追い出される
  6. 警察に逮捕されやすい(「マイカーは白人の特権だ。黒人のくせにマイカーに乗るのは生意気だ」という意識があった)

(1) 黒人に限らず非白人。

(2) 英語は "Jim Crow laws"。

(3)「各人種は平等だが入り交じるべきではない」とする方針。

黒人がマイカーで旅行しようとすると

地域によっては、黒人にサービスを提供する事業者のほうが稀で、黒人は広い国土を自動車で旅行するのがとても大変。 マイカーで旅行する黒人は、例えば次のように備える必要がありました:

  • トイレを利用させてもらえない場合に備えて、車のトランクに簡易トイレやバケツを用意する。
  • 飲食店やガソリン・スタンドを利用させてもらえない場合に備えて、食料やガソリンを余分に用意する。

2.2. "Green Book" の内容

そんな時代に Green さんは、黒人が利用できる飲食店・ホテル・民宿・ガソリンスタンド・娯楽施設・ガレージなどを案内する(*) ガイドブックとして "The Negro Motorist Green Book" を自費出版しました。
(*) 名称と住所を記載する。

"Green Book" がカバーする範囲は当初はニューヨーク市のみ。 ですが後には、米国だけでなくカナダやメキシコなども含む北米の大部分をカバーしました。

"Green Book" は当初は10ページでしたが、のちには80ページにまで増えました。 Green さんは読者に報酬(*) を与えて、自動車で旅行する黒人の役に立つ情報を収集しもしました。
(*) 1ドル。 のちに5ドル。

"Green Book" の他にも黒人向けの旅行ガイドブックは存在しましたが、"Green Book" は当時の黒人旅行者にとってバイブルと呼べる存在でした。

2.3. "Green Book" の収益

"Green Book" の価格は当初は25セント。 ですが、1957年には1ドル25セントにまで値上がりしました(ページ数が増えたせいもあるでしょう)。

"Green Book" は最終的には年間 1,5000部ほど売れていました。 通販のほか黒人系の事業所(ガソリン・スタンドなど)に置かれるなどして販売されました。

"Green Book" はサービス提供者(飲食店や宿などでしょう)の側から広告料を受け取りもしました。 "Green Book" に広告料を支払ったサービス提供者は、自分の施設の名称を目立ちやすく表示(*) してもらえました。
(*) 太字で表記したり、名称の横に星印を付けたり。

2.4. "Green Book" の終焉

1964年公民権法(Civil Rights Act of 1964)が施行され、"Green Book" の必要性を生んでいた人種差別的な行為が禁止(違法化)されると、"Green Book" もその役目を終えました。

"Green Book" が不要となる日の到来は、Green さんが望んでいたことでした。

3. 映画「グリーンブック」における "Green Book"

黒人差別が未だ続く 1962年、黒人ジャズ・ピアニストであるドクター・シャーリーは米国南部を8週間かけてまわるコンサート・ツアーを計画します。

米国南部は人種差別が激しく黒人が旅をするには危険なので、彼は道中のトラブルを回避するためボディーガード&運転手として粗野な白人バウンサーであるトニー・リップを雇います。

シャーリーの所属事務所は黒人であるシャーリーとの旅の道中で困らぬよう、トニーに1冊のガイドブックを与えます。 それが「グリーンブック」です。

シャーリーとトニーについて

シャーリーもトニーも実在の人物がモデルです。 音楽の博士号を持つ黒人ジャズ・ピアニスト Don Shirleyと、ナイトクラブの支配人・バウンサー(用心棒のようなもの)・俳優などとして活躍したイタリア系の白人 Tony Vallelonga の2人です。

  • Don Shirley(1927~2013年)はフルネームを Donald Walbridge Shirley といい、作中では「ドクター・シャーリー」と呼ばれます。
  • Tony Vallelonga(1930~2013年)はフルネームを Frank Anthony Vallelonga Sr. といい、作中では「トニー・リップ」と呼ばれます。

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